やめたいのに、やめられない。
変わりたいのに、変われない。
仕事。人間関係。住む場所。生き方。
「そろそろ変えなきゃ」と思いながら、何年も同じ場所にいる。
もしあなたがその状態にいるなら、知っておいてほしいことがあります。
踏み出せないのは、あなたの意志が弱いからではありません。
あなたが無意識にかけている「保険」のせいかもしれません。
「保険」とは何か

保険とは、失敗したときのための逃げ道です。
仕事をやめたいけど、「もしダメだったときのために」今の職場に残っている。
関係を終わりにしたいけど、「一人になるのが怖いから」続けている。
新しいことを始めたいけど、「失敗したら恥ずかしいから」動かない。
全部、保険。
そして本人は「慎重なだけ」「現実的なだけ」と思っている。保険をかけていることに、気づいていない。
バックアッププランを考えるだけで、脳は手を抜く

2016年、ウィスコンシン大学マディソン校のジヘ・シン助教とペンシルバニア大学ウォートン校のキャサリン・ミルクマン教授が、興味深い実験を行いました。
被験者に文章の並べ替え課題を出し、成績が良ければご褒美がもらえると伝えた。
一部のグループには「もしご褒美がもらえなかった場合の別の方法」を考えさせた。つまりバックアッププランを立てさせた。
結果、バックアッププランを考えたグループは、課題のパフォーマンスが明らかに低下した。
原因を調べると、「目標を達成したいという意欲そのものが下がっていた」ことがわかった。
つまり、逃げ道を用意した瞬間、脳は「まあ、最悪そっちがあるからいいか」と判断して、本気を出さなくなる。
保険をかけた瞬間に、脳はもう半分諦めているんです。
逃げ道を残すと、脳はそっちに向かう

この研究が教えてくれるのは、恐ろしい事実です。
逃げ道は「安心のために」用意したはずなのに、脳はその逃げ道に向かって歩き始める。
「今の仕事がダメでも、まあ実家があるし」
「この人と別れても、一人でもなんとかなるし」
「挑戦して失敗しても、元の場所に戻ればいいし」
安心のつもりで用意した保険が、いつの間にか「踏み出さない理由」に変わっている。
以前の記事で「確証バイアス」について書きました。脳は自分が信じていることの証拠を自動で集める。
「どうせうまくいかない」と心のどこかで思っていれば、脳はうまくいかない証拠を集め始める。保険をかけた時点で、脳は「うまくいかない前提」で動いているんです。
「慎重」と「保険」は違う
ここで大切な区別があります。
慎重であることと、保険をかけることは違います。
慎重な人は、リスクを考えた上で「それでもやる」と決める。情報を集め、準備をし、覚悟を持って踏み出す。
保険をかける人は、リスクを考えて「やらない理由」を増やす。準備のふりをして、実は逃げ道を広げている。
一見似ているけれど、方向が正反対です。
慎重は前に進むための行為。保険は立ち止まるための行為。
もし「準備が足りない」「もう少し考えてから」と何ヶ月も言い続けているなら、それは慎重ではなく、保険かもしれません。
保険を手放すのが怖い理由

「じゃあ保険を捨てればいい」
そう簡単にはいきません。
保険を手放すのが怖いのは、「失敗したとき自分を守るものがなくなる」から。
以前の記事で「本音を言えないのは脳が学習したから」と書きました。子どもの頃に「失敗=怒られる」「間違い=恥ずかしい」と学んだ脳は、大人になっても「失敗しないこと」を最優先にする。
保険は、その脳の防衛反応なんです。
だから保険を手放せない自分を、責めないでください。それはあなたの脳が、長い年月をかけて身につけた「生き延びる方法」。
ただ、その方法が「変わりたいのに変われない」を作り出しているということは、知っておいてほしい。
逃げ道を捨てた人間が、一番強い
シン助教とミルクマン教授の研究が示すのは、こういうことです。
逃げ道を捨てた瞬間、脳は「もうこっちしかない」と判断して、全力を出し始める。
保険がなくなると、脳は「何としてでも成功させる」モードに切り替わる。
逃げ道がない状態は怖い。でもその「怖い」の中にしか、本当の変化はない。
逃げ道を捨てた人間が、一番強い。
いきなり全部捨てる必要はありません。まず一つだけ、一番小さな保険を手放してみてください。
「もし失敗したら」の「もし」を一つ消す。それだけで、脳の動き方が変わり始めます。
その小さな積み重ねで、あなたの人生を変えていく。



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